2014年ベストアルバム 1〜10位

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10. 坂本慎太郎 – ナマで踊ろう

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レイジ・アゲインスト・イエロー・メサイア

スタジオジブリのドキュメンタリー映画『夢と狂気の王国』は、宮﨑駿、鈴木敏夫、高畑勲を主人公とした屈指の“青春映画”だった。しかし最も印象に残っているのは、鈴木敏夫が『風立ちぬ』制作中の宮﨑駿に次のような言葉を語るシーンだ。

「あれをやっちゃいけない、これをやっちゃいけないと、各方面から表現上の締め付けが厳しくなってきています。自由に作品を作れるのはこれで最後。宮さんと高畑さんの時代で終わりです(意訳)」

これに対して宮﨑駿は、ついに始まったということですね…と漏らす。


かつてこの国には 恐ろしい仕組みがあった
君のパパやママが 戦ってそれを壊した

でも思い出して そいつはいるよ
明日起きて 考えてみて

坂本慎太郎「未来の子守唄」



前作『幽霊の気分で』が、ゆらゆら帝国「空洞です」で築いた金字塔をベースとした世界観を、よりモンドな雰囲気と親密なプロダクションによって解体&アップデートしたの作品だったとしたら、この2ndソロ『ナマで踊ろう』は、前作の延長にあるサウンドと、分かりやすくディストピアな風刺的リリックの組み合わせによる順当な作品ということになるだろう。

しかし悲しいことに、時代は本作に追いついてしまった。2014年5月のリリース時には、どこかで「なにもそこまで風刺的/悲観的でなくても」と思えたが、今この2014年末においては、このレコードの全てが強烈な真実味を持ち、ひたすらに恐ろしくさえ感じられる。そう、今年のいくつかの事件や、法案成立、政治動向が、本作の予言に基づいて行われたようにすら思えるくらいだ。

「未来の子守唄」のなかで歌われる“未来”が、いつを指しているのか、この数ヶ月でさらに不確かになってしまった。はっきりもっとソフトに死んでしまう、そんな時代の足音が聞こえている。

しかし忘れてはならない。我々が「君のパパやママ」になれる、そんな希望の可能性を、このレコードが語りかけてくれていることを。


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9. Lust For Youth – International

Sacred Bones

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新世代のオアシスは彼らだ

コペンハーゲンのボスでありレーベルPosh Isolationを主宰するLoke Rahbek、そしてMalthe Fischerが加入し、3ピースとなったラスト・フォー・ユース。新体制での初のアルバムとなる『インターナショナル』は、レーベルSacred Bonesのオフィシャルサイトにも記載されている通り、デペッシュ・モード、ペット・ショップ・ボーイズ、ニュー・オーダーを彷彿とさせる、ポップフィールドへの進出作だ。

……と以前レビューをしたが、果たしてどうだろう。もちろん、本作の基本はシンセやエレクトロニクスを駆使したダンスポップであり、中心人物のHannesがペット・ショップ・ボーイズへのリスペクトを口にしていることからも「Posh Isolation周辺らしいアンダーグラウンド性とニューウェイブの融合を、これまでよりポップな方向に進めた一作」と連想するのは自然な流れだ。

しかし、2014年末の現在、あらためて本作に耳を傾けることで目に浮かぶのは、あのリアム・ギャラガーをフロントに据えたオアシスだ。

これを妄想だと思うだろうか? まずは騙されたと思って、試してみてほしい。これはオアシスだ。デペッシュ・モード、ペット・ショップ・ボーイズ、ニュー・オーダーはもちろん素晴らしいバンドだが、どこかB級というか、2軍というイメージが無いだろうか? そして、このラスト・フォー・ユースはアイスエイジに対して、どこかしらサブ的なポジションというイメージを持っていないだろうか?

そうじゃない。これはオアシスだ。

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8. Lower – Seek Warmer Climes

Escho / Matador / BIG LOVE



名前をつけてやれない

同郷コペンハーゲンの盟友アイスエイジと同じく、アメリカの名門レーベル<マタドール>とサインし(日本ではBIG LOVE/本国デンマークではEscho)、「次のアイスエイジ」として期待を集めたロウワーのデビュー作。

2012年のデビューシングルと比較するとハードコア色が後退し、ポストパンク色が強まり、メロディーはより叙情的になった。しかし本作をポストパンクと呼ぶことも、ハードコアと呼ぶことも、ましてやロックと呼ぶことも、どこかしっくりこない。

「ジャンルなんていうのは怠け者にだけ必要なんだよ。10年とか40年、100年前の話をするなら必要かもしれないけどね。ぼくらのは、今の音楽だから」と、Age Coinとしてインダストリアルなダンスミュージックを発表しているKristianがインタビューで話していた。インタビュー当時は「よくあるミュージシャンの発言」と捉えていた部分もあるが、今ハッキリと分かる。まさしくその通りだ。

ロウワーはコペンハーゲンシーンの中でも、屈指の「分かりづらい音楽」だった。

それはロウワーのメンバーがほぼ全員別プロジェクトでの音楽活動をしていることや、「いくらでも衝突はあるけどその中で方向性を見つけて、全員が納得出来る着地点を見つけた時は、もう見えない敵に勝ったような気分になる」と語るソングライティングのプロセスに起因する部分もあるだろう。

2014年屈指の名曲「Soft Option」をあらためて聴いてみて欲しい。ファーストヴァースで演奏される非凡なベースラインと、ポストパンク的な響きでストイックに鳴らされるギター、ハードコアを感じさせる音色のシンプルなドラムス、そして堕落した貴族のような退廃的なボーカルのコンビネーション。そして楽曲全体でクレッシェンドし、エフェクトも強まっていく楽曲構成。さて、あなたならこの音楽をなんと呼ぶだろう?

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7. Arca – Xen

Mute



彼女を解き放て

アルカの1stアルバム『ゼン』は、マーケティングを中心とした様々なポジションからの利害関係のせいか、やたらと刺激的で、スノッブで、強迫観念的なコピーや文脈で語られ、2014年において最大級の話題作となった。このAMPは音楽における「共通の話題」を好むメディアだが、本作を取り囲む、過剰とも言える状況はやや残念にも感じられた。

というのも、国内外問わず、メディアや個人の年間ベストを眺めると、“煽り”の反動か「思ったほどじゃない」「『&&&&&』の方が良かった」と、本作は不当に評価を下げられてしまったように感じられるからだ。

この『ゼン』は、アルカがベネズエラ出身という出自による英米以外のカルチャーからの影響や、富裕層出身ということによるたしかな音楽的教養をベースに、性的嗜好をはじめとしたコンプレックスと音楽への思いを昇華させた「真っ当な作品」であり、誤解を恐れずに言うならば、アントニー・アンド・ザ・ジョンソンズや、2ndまでの七尾旅人の類の音楽という側面も持っているはずなのだ。

そう、このレコードは美しい。期待させられたほど刺激的ではなかったかもしれないが、エイフェックス・ツインの『サイロ』同様に、一聴して「アルカだ」と感じさせる個性もある。一時の流行に貶められるべきではない。普遍性を持った、気高く、感動的な作品だ。

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6. F.E. Denning – Cities Of Light

Posh Isolation

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美しさ

コペンハーゲンのPosh Isolationからカセットテープにて2作品をリリースしてきたF.E. Denningsによる、初アナログレコード作品。

抑揚を抑えたシンセによるドローンに、おそらくフィールドレコーディングされたと思しきノイズ/アトモスフィア。そしてメロディーとまではいかないメランコリアによる全5曲35分。アートワークが象徴するのは、現代の都会の美しさと恐怖、そしてそこに住む人々がそれぞれ抱える孤独を感じさせる、寂寥とかすかな希望と安堵のフィーリングだ。夜明けなのか夜の訪れなのか判断できない、美しき一瞬を描くような映像的な音楽に、再生中はただ息を呑むことしかできないだろう。

2014年において最も言葉を必要としない、レコードというフォーマットの魅力を凝縮した「音楽」だ。

[Posh Isolation]


5. Aphex Twin – Syro

Warp



「俺は音楽が好きだ! お前は?」というリチャードからの挑戦状

デジタルとネットワーク時代の課題としてよく語られるのが「淘汰がなくなる」ということだ。

つまりあらゆるデジタル情報は、物質と密接に結びついたアナログ情報と違い、朽ちることがなく、ストレージも無限に近いため、永遠に残るということである。それ自体はメリットのようにも感じられるが、要はゴミのような情報が永遠に生き続け、ノイズとして山積されてしまうという点が問題視されているのだ。

「グノシー」や「スマートニュース」といった、個人のテイストに最適化された、もしくはキュレーターの手が介在したニュースアグリゲーションサービスを利用している読者も少なくないと思うが、こうしたサービスが求められていることからも、前述の問題が現実になっているのがお分かりいただけるだろう。

もちろんそれはニュースや情報に限らず、音楽をはじめとした「表現」や「作品」といった分野にも無縁ではない。GaragebandとMySpace以降、現在ではSoundCloudやBandcampで様々な個人がカンタンに自分の作品を公開できるようになった。そのことにより、これまでのシステムの中では世界に知られることのなかったであろう環境にいる才能ある新人が多数登場することになったのは、すでに広く知られていることだろう。しかし、マルチネのtomad氏も指摘するように「誰でも簡単に音源をアップロードできることもあり、質の高い曲が少ない」というデメリットも当然のように発生している。このことによって情報の処理量が膨大となり、音楽を聴くことのハードルがある意味で上がってしまっている状況があることも事実。つまりは供給過多なのだ。

このエイフェックス・ツイン13年ぶりの新作『サイロ』は、そうした状況と無縁な作品ではないだろう。全12曲どこを聴いても、なんとなくプラグインを適当にいじりながら、「これでいいかも」と配置したような音は存在しない。適当にMacやシンセをいじって見つけた、なんとなく良い感じの音色やエフェクトを並べ、「抽象性」という言い訳を抱えた流れの中で、なんとなく作り手や聞き手が意味を見出していくような作品ではない。

何より、ザ・デザイナーズ・リパブリックが手がけたアートワークにおいて、使用された機材リストや、本作の1コピーあたりにかけられた制作予算が記載されていることが、本作がある種の「問題提起」を含んでいることを象徴している。リチャードはじめ、彼の周りのスタッフは、明確な意思を持って音楽を作り、それを届けるべく、人が動き、プロモーションを行ったということの表明として機能しているのだ。

しかし、WARPというレーベルに所属するある種の特権階級として、上から目線で言っているのではない。何よりも本作のクオリティーは圧倒的だし、リチャードは自身の息子の音楽作品をSoundCloudにアップして公開した。そして彼はリフレックスというレーベルのオーナーでもある。

つまりこれは「お前らもこれくらいの音楽を作ってみろよ。受けて立つぞ」という挑戦状だ。リチャードは音楽を楽しんでいる。

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4. FKA twigs – LP1

Young Turks / Hostess



2014年のポップミュージックの中心

2014年最も期待されたレコードは本作で間違いないだろう。

カニエ・ウェスト『イーザス』への参加によって“新進気鋭”の代名詞となったアルカをパートナーに迎えた『EP2』により、FKAツイッグスの名はここ日本でもほぼリアルタイムで伝わり、ポストダブステップ、インディーR&B、ポストインターネットという流れにおける合流地点としてハッキリとフラグが立てられていた。

しかし、蓋を開けてみれば、アルカの参加が限定的なものだったこともあり「思ったより普通だったな」という意見も少なくなく、賛否両論の雰囲気もある。これは何も日本のTwitterにおける音楽ファンに限った話ではなく、国内外のメディアのランキングを見渡してもあまり印象は変わらない。

だが、ひとつの事実として、『1989』がテイラー・スウィフトの作品であり、『マイ・エブリシング』がアリアナ・グランデの作品であるように、…いやそれら以上に、この『LP1』はFKAツイッグスの作品なのだ。

吐息混じりで繊細なビブラートを使う、ハイトーンなFKAツイッグスのボーカルは何より魅力的で、官能的で、彼女の声やメロディーを活かすサウンドプロダクションには分かりやすい「顔」こそ無いものの、息を呑むクオリティーがあり、身体性がある。2014年の音楽シーンを俯瞰する視点も持っている。

これは「アルカ、クラムズ・カジノ、デヴ・ハインズ、ポール・エプワースらの先鋭的なプロダクションと、FKAツイッグスというイットガールの組み合わせによる、アイコニックでセンセーショナルなレコード」ではない。そもそも、FKAツイッグス本人が、ほぼ全曲において作曲とプロデュースを行っているのだ。

インディーR&B、ポストインターネットetc…この2014年も世界は沢山の音楽で溢れ、我々を楽しませてくれた。もちろん視点はいくつもあるだろうが、ここから見える2014年のポップミュージックの中心地点は、このレコードだった。

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3. Iceage – Plowing into the Field of Love

Matador / Hostess

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21世紀のニルヴァーナ『イン・ユーテロ』

コペンハーゲンを飛び出し、世界中のキッズやメディアを魅了しつつあるアイスエイジの3rdアルバムは、ピッチフォークで先行トラック3曲すべてがBEST NEW TRACKを獲得し、もちろんアルバム自体も8.5点でのBEST NEW MUSICに輝き、各メディアの年間ベストにも多くランクインするレコードとなった。

サウンド的には、使用する楽器の幅と音楽性を広げ、オーセンティックなロックミュージックに接近し、相対的にポストパンク/ハードコア色が後退したことが特徴と言えるが、アイスエイジというバンドの本質は最初から何も変わっていない。

彼らの最大の音楽的魅力は 「声」と「メロディー」だ。

アイスエイジの音楽は、ボーカル、ギター、ベース、ドラムというありふれた編成を中心としている。トレンディな、アイコニックな新しさを取り入れたりすることもない。しかし彼らは常に新しい。だから新作のたびに、最初はほぼ全曲が同じかのように感じられるのだ。

しかし、各楽曲にいつしか耳が追いつくと、次第にそれぞれが美しいメロディーを持った楽曲だということにも気付かされる。なんなら今、1st『ニュー・ブリゲイド』を聴き直してみれば分かりやすい。あのグシャグシャな演奏で、ナイフのような鋭さと一瞬のきらめきが渾然一体となった“エネルギーが魅力”のように思われた作品が、実はニルヴァーナ『ネヴァーマインド』のような優れたポップソング集でもあったことに嫌でも気が付くはずだ。

そして、ボーカルのエリアスは、カート・コバーン、ピート・ドハーティと肩を並べる、聴き手の心に入り込み「何か」を掬い上げる、魅力的な声を持ったボーカリストなのだ。

天使か、悪魔か、「酩酊した先導師のよう」とも評される稀代のカリスマであるエリアスを先頭に、血の絆と透徹された美学によって結びつく旅団、アイスエイジ。ハードコアを軸に、コペンハーゲン、オーストラリア、LA、ニューヨークといった、世界中のアンダーグラウンドをつなげる存在ともなりつつある彼らに、つまらない冗談や、メタや、茶化しはない。ひたすらにギラついた目と、美しいルックス、そして情熱で、シーンや心を動かす音楽を作り続けている。

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2. D’Angelo – Black Messiah

RCA

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すべてが圧倒的。これこそが歴史的名盤

ディアンジェロ14年ぶりの新作は、ポップミュージック史すべてを俯瞰しても並べる作品を選ぶことの難しい、脅威のレコードだ。楽曲、演奏のクオリティーが圧倒的なことは指摘するまでもないが、本作はそうした最高の演奏と楽曲を土台に、「録音芸術」としての音楽の歴史を一歩前進させたエポックメイキングな作品と言える。

全編アナログテープでレコーディング&ミキシングされ、一切コンピュータを使用されずに制作されたことは周知のとおりだが、そうしたプロセスが重要なのではなく、何より出来上がったサウンドが凄まじい。目の前でプレイヤーが演奏しているように感じられる「リアル志向」ともまた違う。もちろんローファイでもない類のサウンドだ。

これはザ・ビートルズのプロデューサーとして知られるジョージ・マーティンの言葉「僕はレコードをかけてシンバルの減衰に耳を傾けるような人間じゃない。音楽を聴くんだ」を思い出す、楽曲のための、アルバムのためのプロダクションとでも言うべきサウンドだ。そう「60年代にザ・ビートルズが『リボルバー』を録音したてのマスターテープはこんな音がしたんじゃないだろうか」とすら妄想したくなる。いや、おそらくこのレコードはそれ以上のサウンドを実現している。

「1000 Deaths」のアウトロ数秒のドラムの鳴りだけで米が食える。「Betray My Heart」の演奏、楽曲、録音すべてがお互いを高め合う圧倒的なフィーリングには言葉も出ず、涙が出そうになる。

ただ、このレコードには大きな難点がある。これ以外を聴く気が出なくなってしまう、ということだ。これはマズい。

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1. Torn Hawk – Let’s Cry And Do Pushups At The Same Time

Mexican Summer

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『ラブレス』の先にある宇宙、ここにはいないあの娘

さあ、AMPが選ぶ2014年 年間ベストアルバム1位は、カルト的映像作家として知られるルーク・ワイアットの、トーン・ホーク名義による新作『Let’s Cry and Do Pushups at the Same Time』だ。

ブラックホールの中心で、14歳のエイフェックス・ツインとフェネスとケヴィン・シールズが共作したトラックを爆音で鳴らし、ハイムが書いたフレーズをマーク・マクガイアがギターで弾きまくっているかのような全8曲41分。まるでポップとエクスペリメンタル、ノスタルジアと未来、人間が生まれてから死ぬまでのシーンがすべて一体となり、強烈なエネルギーになっているかのような作品だ。

「泣きながら腕立て伏せをしよう」というアルバムタイトル、そして本作が彼の家族のために作られたという事実は、意味が分からないようで分かる気がするが、それはサウンド面でもそうだ。L.I.E.S.、Not Not Fun、Rush Hour’s、“No Label”、1080pといったアンダーグラウンドレーベルを経て、本作がMexican Summerからリリースされたということも象徴するように、このレコードはエクスペリメンタルでこそあるが、決して聴き手を突き放すことはしない。むしろポップで、誰にでも門戸を開いている作品とも言える。

しかし、そこに「?」は浮かんだままでもある。届きそうで届かない「?」がそこにある。

ブラックホールの中心にある特異点、人類が補完された後の世界、神の手に触れるという体験…。SFを突き詰めると宗教と接近するのはよくあることだが、これはそうした類のレコードだ。まずはこれを購入し、聴いてみてほしい。音楽の秘密に、今より少し近づけるはずだ。

あの娘が行ってしまう。他の誰も僕の痛みを癒すことなんてできないのに
(The La’s – There She Goes)


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2014年ベストアルバム 50〜41位
2014年ベストアルバム 40〜31位
2014年ベストアルバム 30〜21位
2014年ベストアルバム 20〜11位

照沼健太

AMP編集長。好きな音楽は、インディーを中心としたリアルタイムなポップ・ミュージック全般と、50年代のロックンロール。
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