対談:Apple Musicは正義か悪か。音楽はどう変わるのか?

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Apple Music使っていますか? 6月30日からここ日本でも始まった、アップルによる定額サブスクリプション型の音楽ストリーミングサービス「Apple Music」。LINE MUSICやAWAといった国産サービスも始まったばかりですが、世界的にシェアを獲得しているSpotifyがなかなか日本上陸しない現状ではApple Musicはまさに大本命。すでに音楽の聴き方が変わったなどの声も聞かれるなか「今後音楽はどうなってしまうのだろう?」という疑問や不安が届いているのも事実。今回AMPでは「音楽メディアはApple Musicについて語るべき」というライター天野龍太郎の呼びかけのもと、バンド Love and the Krafts の中心人物として活躍し、現在は音楽系出版社に勤める方便凌、AMP編集部から照沼健太と野地祥平という計4名が集まり、Apple Musicとそれが音楽にもたらす影響について語らいました。まだまだ結論を出せる段階ではありませんが、この対談記事が何らかのきっかけとなれば幸いです。各人がApple Musicから選曲したBGMとあわせてお楽しみください。


Backyard Babies – Brand New Hate selected by 照沼健太



Apple Musicはどこまでが自分の持っている音楽か分からなくなる


■みなさんはApple Musicをどのように使っていますか?

天野:毎日使っています。家に帰ったらまずApple Musicを見ます。アップルが用意したプレイリストを聴くよりは、新譜やここ10年のあいだで聴き逃していたものを検索して聴くことが多いです。あとはジャズとメタルをよく聴くようになりました。買う対象として外れていたものというか、優先順位が低いジャンルのものをよく聴くようになった感じです。

方便:僕はいまはじめてApple Musicに触らせてもらったので、使っていません。立場的には反対派として今日は呼ばれてきたわけですが、賛成 / 反対では分けられないものもあるとは考えています。

野地:めちゃくちゃ使ってます。特に良いなと思ったのはレコードで持っていない旧譜とか、売ってしまったものも含めて、とにかくこれだけでかいライブラリがあると探して聴くのが楽しい。新譜はレコードで聴くのであまり探さないですけど、アレ聴きたいと思ったときにパッと聴けるのが便利ですね。

照沼:僕はだいたい全部のApple Musicの機能を使っていて、かなり賛成派です。天野くんがツイッターで褒めていた吉田ヨウヘイgroupってあるのかな?と検索したりして、これまで自分のなかで優先順位の低かった日本のインディーを最近よく聴くようになりました。

方便:でも、ふいに思いついて聴くことはApple Music以前から、YouTubeなどでもできましたよね。

天野:YouTubeは曲があったりなかったりするから。

方便:僕は不便を感じたことはなかったけれど。

照沼:YouTubeはアルバム単位ではそこまで聴けないし。

方便:アルバム単位で聴くという体験がデカイんですか?

照沼:うん、それはあると思う。アルバムにかぎらずEPとかでも。イケア規模のタワレコに放り込まれたみたいな感覚。

天野:ノンストレスでワンタップでいけるというのが大きい気がします。YouTubeで検索して、これがアルバム音源か曲単位かとか考える必要がない。…それにYouTubeは違法だしね、基本的に。

野地:iTunesとかミュージックの画面のままいけるのもデカイんじゃないですかね。

照沼:自分のライブラリが拡張されたみたいな感覚がある。どれが自分の所有している音楽かApple Musicライブラリにある音楽か曖昧にするような作りになっている。

天野:うん、そこがおもしろい。

方便:そこに戸惑いはなかった?

照沼:最初はびっくりした。こうなると「音源を所有するという感覚が世の中からなくなるかもしれない」と思ったし、すでに自分は「iTunes Music Storeで音楽を買うことはないだろうな」と思ったりもしていて。(※と言った2日後にnobodyknows+「ココロオドル」を買いましたが…)

天野:そうそう。(iTunes Music Storeでは)買わなくていい。音質もいっしょだし。

照沼:そうなるとますますレコードかApple Musicかで2極化するかなと。個人的にはiTunes Music Storeでハイレゾ音源の販売がスタートするのを楽しみにしてたけど、ハイレゾはいったんどうでも良くなっちゃった。この便利さの前には。


Prefab Sprout – Appetite selected by 野地祥平



月額980円は、音楽の価値を下げるのか?


■ところで方便くんはApple Musicになぜ反対なんですか?

方便:これだけの物量があるライブラリに「1ヶ月およそ1000円」という値段が設定されれば必然的に音楽そのものの単価が下がることにどうしても抵抗があるんです。物の価値が下がるのは喜ばしいことではない。こんなふうに音楽の値段が下がってしまったら、人々の音楽への執着心が目減りしてしまうんじゃないかという悪い方面の予想があるんです。

照沼:それには僕も賛成です。「Apple Music最高!」と思いつつも細かく気になるところはたくさんあるけど、一番気に食わないのは利用料が安いということ。Apple Musicには、音楽ファンにとっては夢のような世界が広がっている。アップルが用意したプレイリストもわりとおもしろい。Apple Musicが始まってから、高校生の頃に音楽を聴いてたときくらいの楽しさが蘇っていて…

天野:僕もこの1〜2週間本当に楽しかったです。最近は映画を観てばっかりだったけど、また音楽を聴く習慣が戻ってきた。

照沼:そう。でも、それが月額980円は安すぎる。競合がいるのはわかるけど、5,000円くらい取ってほしい。それは、方便くんが言うように音楽の価値が下がるから。CD買ってた世代や、最近レコードを買ってる人たちは一定の価値基準があるけど、Apple Music以降の世代はもう月額980円という感覚がデフォルトになると思う。

方便:実際にApple Musicを触って、音楽の価値が下がったようには感じましたか?

照沼:言ってることが違うようだけど、僕はApple Musicは他の競合サービスに比べれば断然良いと思ってます。LINE MUSICやAWAやSpotifyと比べて、音楽の扱い方がカッコイイから。自分の持っている曲とApple Musicにある曲の境目がわからなくなるとさっき言ったけど、逆に言えばストリーミングで聴いている曲も実際に持っているように錯覚できる作りになっている。放映中のTV CMもそうだけど、サービス全体が「音楽を聴くことがかっこいい」と思わせるように作られている。そういう意味では、ある部分でSpotifyが下げた音楽の価値を引き上げているようにも感じられる。

天野:なんにしてもクールなんですよね。Beats1にしても。所有感覚がめちゃくちゃになるのもある意味クール。混乱状態が麻薬的。

照沼:いい具合に「For You」機能とかで混沌がマネジメントされているのも上手いなと。何聴けばいいか分からない感がない。サジェストされる音楽も毎日変わるし。

方便:うーん、そういうもんですか。自分が聴きたいものを聴いたらいいじゃないですか。

照沼:「自分の持っているCDやレコードも満足に聴けないのに無制限のライブラリなんて必要か」って意見もあるよね。でも、僕はラジオ番組でもクラブDJでも、一定の意思を持って選ばれた音楽を強制的に聞かされるのも好きだからな。自分で選んで聴く音楽って、どれだけ幅広く聴こうとしても限られるし。そこで取り逃したものを一段階広い範囲で聴けるのが楽しいかな。

天野:能動性と受動性の両方がある自由さこそがApple Musicの楽しさじゃないかな。世の中で話題になっていたり、海外のサイトで評価されているレコードだけど「自分なら買わないな」という作品が聴けるのも良い。そこに功罪はありつつも。

方便:利便性に関していえば、新しく登場するサービスが便利なのは当たり前だと思っていて。僕が気になるのは……たとえば、アップルみたいな音楽業界の外から来た企業が、市場価格を無視して破格のサービスを行うこと自体が、保守派としては疑問がある。


Roxy Music – Remake / Remodel selected by 天野龍太郎



Apple Musicは「音楽メディア」を殺すか?


照沼:でも世界的にはすでにSpotifyがいたわけで、さっきも言ったけど、SpotifyよりはApple Musicの方が音楽をかっこよく扱って全体の価値は上げているようにも思うんだけど。

天野:うん、Spotifyは本当にIT業界という感じでダサい。僕が「AMPでApple Musicを取り上げたほうが良い」と思ったのは、日本ではITメディアしか取り扱っていないから。これが使いやすい/使いづらいとか、3ヶ月無料で使ってあとは使わない方法とか、そういう記事じゃなくて、音楽がどういうふうに扱われているのか、音楽の価値がどう変わるのかとか、そういう話をしたいんですよ。そういう意味では、やはり良い悪い別にしてこのApple Musicは革命的。新技術だからどうこうじゃなく、これで音楽がどう変わるか、聴き方がどう変わるかということに興味があるわけで、そういう意味でいえばSpotifyはどうでもいいと思ってる。あれはIT技術でしかない。

照沼:Spotifyは個人のプレイリストシェア文化が盛んで、まさにソーシャル時代の聴き方。音楽メディアも音楽ブログもいらなくて、ツイッターで信頼できる人をフォローしてその人が勧める音楽を聴いていればいいみたいな感じ。でもApple Musicは「プロが重要っしょ」という感じだよね。

天野:そう。プロフェッショナリズムが重要。ゼイン・ロウはその象徴。

照沼:うん、BBC Radio 1のトップDJだったゼイン・ロウを引き抜いてアイコンにしているのが何より象徴的。だからある意味ではSpotifyより旧態依然としたサービスと言えるかもしれないけど、それを1周回ってアップデートした最新型だとも思う。

方便:そういった人たちが裏にいるのはわかるんだけど、実際は「For You」でいきなりプレイリストだけが手渡されるわけでしょう。 たとえば「カンに影響を受けた音楽」というプレイリストの中でパブリック・イメージ・リミテッドを提示されたとして、どうしてパブリック・イメージ・リミテッドがリストアップされているのかは説明がないから分からない。

天野:そうだね。そこにテキストがのったら本当に音楽メディアはいらなくなるだろうなと思う。

照沼:僕はApple Musicをはじめて触ったとき「これはアップルに雇われないとマジで仕事なくなるかも」と思った。これによって「圏内の音楽」と「圏外の音楽」という概念ができるんじゃないかとも。簡単にいえば「圏内」はApple Musicにあるやつ。「圏外」はそこにない、Wasabi Tapesのリルセガくんが中心的に扱っているような音楽。だから僕含め「リルセガくん以外の音楽メディア人は仕事がなくなるとビビったほうがいいぞ」と思った。テキストをあまり載せていないのはアップルの手が回ってないのか、あえて隙間を残しているのか。どっちなんだろう。


CAN – Vitamin C selected by 方便稜



Apple Musicと「気合いとフィジカル」の2極化?


天野:でもやっぱり有名なのでもApple Musicにも無い音楽はたくさんある。その象徴としておもしろかったことがあって、Apple Musicの検索ボタンを押すと話題の検索ワードが出てくるんだけど、サーヴィスがはじまった直後、そこにカタカナで「ビートルズ」っていうのが出てきたんだよね。

照沼:個人的にはこの話題の検索ワードがかなり嫌で、見ると検索されてる内容にガッカリしてしまう。

天野:でもそれだけライト層がいるということだし、そうしたライト層が手軽に色んな音楽にアクセスできるようになるというのが良いんだと思う。

方便:そんなに手軽じゃなくていいと思うけどね。

天野:でも先日照沼さんが引用ツイートしてたんだけど、「はじめてまともに洋楽聴いてる」というコメントといっしょにオアシスの「ホワットエヴァー」をツイートしてた女の子がいて、ああいうのはすごく良いと思う。

照沼:うん。「利用料を高くしろ」と言いつつも、やっぱライト層のためには絶対に安いほうが良いとも思う。それに利用料を上げるのが現実的じゃないのも分かってるし。だから、そのぶんレコードとかは生産数を下げて単価を上げていいと思う。今も高いけど、でも買えない人がいるくらいの方が、価値をつくるだろうし。気合いがないと買えない値段と生産数。Posh Isolationがやっているように、作品の内容に見合った生産数を決め手、どういう人がどういう経路で手にするかまでコントロールするという、リリースそれ自体に美しさや完璧さを求める姿勢というのは今後広まっていくんじゃないかと。

天野:まさに「気合いとフィジカル」の世界ですね。

方便:それはたしかにそのとおり。前に、照沼さんがツイッターでそういったことを発言してるのを見て、共感もしたし。僕も、自分がいま音楽活動をしっかりやっていたとしたら、作品は流通に載せたくないなと考えることがあります。

天野:Apple Musicが先鋭化する一方で、気合いとフィジカルの美学で駆動している音楽文化も先鋭化していく。音楽を売って利益を得ることを考えた場合、もしかしたらその両極しか選択肢がなくなっていくと思う。

方便:でも、僕は先鋭と先鋭の中間の立場に自分がいると思っているから…。それに、ミュージシャンやレコード屋の人々はみんな明確には声にしないけれど、賛成はしていないと思う。悪い言い方をすれば、Apple Musicに支配されていくというか。


Marilyn Manson – The Reflecting God selected by 照沼健太



Apple Music=『1984』?


照沼:うん、基本的に支配の危険性はかなりある。

天野:これは友だちがツイッターで言ってたんだけど、Apple Musicはまさに「管理と専制のツール」でもある。だから一方で支配や権力の一極集中の方向にすでに進んでいる気がする。でもまだ評価するには時期尚早だと思う。YouTubeだけで音楽を聴いていたようなライト層の人たちが、実際にお金を出して合法的に音楽を聞くようになっていく可能性もあるし。

方便:Apple Musicの収益は、実際にはどんな割合で分配されるんだろう?

天野:そう、そこがまだ不透明。

照沼:安くても、確実に聴かれたアーティストにお金がいくという意味ではフェアだと思う。

天野:いや、再生回数が著作権料に反映されるかあやしいという話もあるんですよ。でも、そういったことを非ミュージシャンで、かつ音楽産業にも携わっていないような一般のファンが考えているというのはすごい時代だし、それを考えるべきなのかどうかは分からないな。

方便:だけど今日、僕は「そこを考えたほうがいいんじゃないの」と言うために来たわけで。音楽家にしろレコード会社にしろ小売店にしろ、Apple Musicによって職を失う人々がいるかもしれないってことは、いちど考えてみてもいいはず。

天野:職を失う人がいるかどうかはわからないけど、音楽に関わる人たちはみんな語るべきだと思うな。それだけ恐ろしくも革命的なサービスだし。

照沼:たしかに僕もApple Music以降、買うレコードに差はでてきたかな。買うものが変わるという程度だけど。そんなに欲しくないけど、押さえてはおきたいLeon Bridgesみたいなのは買わなくなって、そのぶんApple Musicに載らないであろうレコードを買うようになった。


New Order – Bizarre Love Triangle selected by 野地祥平



リスナーとしての傲慢、消費者としての矜持


方便:ただ、これは他人に押し付けようと思わないけれど、「買うほどじゃないけど押さえとかなきゃ」みたいなのは傲慢にも感じるんですよ。

天野:それは傲慢なの?そこまで音楽に対して敬意を払おうとするなら、例えば中古盤も買わないようにするとか、それだけの潔癖症的な繊細さや屹然とした態度を持ち合わせないと音楽を聴けなくなると思う。

方便:そうだけどね。でも、手に入らないものがあるのも仕方がないと思う。

天野:「自分が持てる範囲内でどうにかしろ」と。

方便:「あれもこれも聴きたい」とは誰もが思うことだけれど。

天野:うん、欲望するものが手に入らないというのは重要だとは思う。

照沼:たしかにね。それは僕もそう思う。

天野:手の届かないものがある。「届かない」という渇望する感じは重要。

方便:自分が使える範囲のお金の中で自分なりに順位をつけて、選んで、お金を出すという行為に消費者としての矜持が宿るんだと思っていて。天秤にかけることで執着心や責任感のようなものまで背負い込むことになるんだけど、そういったものも含めて音楽に触れる生活を楽しんでいたんじゃないか、とさえ思う。一方で「1ヶ月980円払っておけばオールOK」みたいなお金の使い方には美学がない。

天野:だから「Apple Musicにないもの」という価値が生まれるんじゃないかな。たとえばリルセガがセレクトしてるものとかは、ここにないものが多い。そしてどっちも先鋭化していく。

方便:となるとミュージシャンが今後やっていこうとすると、シングル曲だけをApple Musicに載せて、アルバムは自分の直販でやるとかになるのかな?

天野:食っていこうと思ったらそうなるのかもしれない。ニコニコ方面の同人系とかビジュアル系はそうなっているわけだよね。そこはもう革命以降どうやっていくかという話で。厳しいけど、アーティストがどうやっていくかというのは各自が考えないといけない。


Mastodon – Crystal Skull selected by 天野龍太郎



音楽以外の分野では特に問題視されないサブスクリプション?


照沼:ところで方便くんはこの前バンダイチャンネルに登録しようとしてたけどその辺はどうなの?

方便:結局登録はしてないです。ただ、ソフトの相場に大きく差があるうえ、何回も再生する音楽とほぼ一回きりの映像と、また事情は変わってくるかと思いますが…。

照沼:でも本質からすればApple Musicと変わらないよね。作り手は「こんな低賃金で苦労して作ったアニメが定額のはした金で見放題かよ!」って思うと思うんだけど。

方便:うーん…。

照沼:これはよく話すことなんだけど、音楽は良くも悪くも一番カルチャーのなかで面倒くさいジャンルと思っていて。AMPで僕が「フィジカルで出てない音源は相手にしない」と発言して炎上した件、正直自分でも戯言だと思う。そもそもBandcampで買ったりもしてるし。でもマジで怒られた。けど、それが音楽の良いところだと思う。みんな思い入れがすごいあるから。たとえばファッション誌の編集長が「ジーンズはファッションとして疑問」と言っても炎上しないでしょう。実際にエディ・スリマンもディオール初期のころ、「ジーンズとTシャツは怠惰」と言ってたけど別に誰もそれに怒らなかった。「そうか、エディはそう思うか」程度の話。

天野:音楽ファンはある意味で他者の価値観を認めないというか、自分が信じているものを他人にも求めるようなところがある。僕らだって、だからこそこうやって集まって話してるわけだし。

照沼:バンダイチャンネルの是非についてアニメ雑誌は多分語り合わないもんね。

天野:うん、NHKオンデマンドの是非については語り合いたくない(笑)それくらい音楽はやっぱり人生と結びついている気がする。

方便:ミュージシャンやレコード屋さんの意見を聴きたいですね。

照沼:そうだね。でも、正直Apple Musicを使ってみて、ミュージシャンが専業でやれる時代は終わったなと思う。

方便:うん、Apple Musicが出る前から終わったと思ってたけど、もう完全に終わったと思う。

照沼:生きていけるのは、ビッグアーティストか、信者を抱えているカルトか。

方便:すでにここ数年「音源が売れないからライブやグッズで埋め合わせよう」といった流れになっていると聞くけれど、でもそういうものじゃないだろうとは感じていて。音楽を聴く理由とグッズは関係ない。

天野:そうだよね。the sign magazineでタナソウさんが「ポップ」について書いていたジュリアン・カサブランカスの原稿にもあったけど、僕は言ってしまえば「人生を変えられるような破壊的なもの」を音楽に求めているところがある。でも、グッズで人生を変えられることはないと思う。


空気公団 – 旅をしませんか selected by 方便稜



Beats1は音楽的グローバリズムの決定打か?


方便:ちょっと話はズレるけど、Apple Musicによって「1回聴いてダメだったらもう聴かない」みたいなことが増えそう。月にこれだけしか買えないから、ということで買った作品がハズレで「全然良くない」と思いつつも、無理して聴くみたいなカルチャーは無くなるのかな。昔トータス松本が話してたけれど、10代の頃、忌野清志郎の影響で古いソウルのレコードを買ったけど、どこがいいのかが全く分からなくて、だけど我慢して聴いていたらだんだん好きになっていったみたいな。牧歌的かもしれないけど、いい話だと思う。

照沼:それはApple Music以前に終わってる可能性があると思う。去年AMPでそういう経験が重要と書いたら「スヌーザー信者か(笑)」という反応がツイッターであって、どこがスヌーザーなのか意味が分からなかったけど「あ、そういう感じなのか」と思った。あと、最近Soundcloudについて誰かが「イントロでもっていく音楽が増えすぎ」って書いてたのも近いのかもしれない。

方便:イントロ1秒で確実に耳を引こうとするような音楽ばかりが増えていくのかな。レッド・ツェッペリンの「天国への階段」みたいな曲なんかはアウトですね。

天野:アコギの爪弾きから始まって…

方便:ドラムが入るまで4分半かかるという(笑)

照沼:そういう意味ではゼイン・ロウみたいな人が「これが良い」と言い切ることが大事なんだと思う。

天野:アマチュアの声がデカくなればなるほどプロフェッショナリズムが大事になる。というところはあると思う。良くも悪くも。

照沼:僕はBBC時代からゼイン・ロウの番組が大好きだったから、またApple Musicのラジオ「Bets1」で彼の番組が聴けるようになって嬉しかったな。しかし、Beats1が何よりエキサイティングなのは、世界中の人が同じ番組を聴くということ。

方便:いや、それはどうなんですかね。抵抗がありますけどね。

照沼:グローバリズムということ?

方便:うん。

照沼:でも、やっぱり日本のポップミュージックは結局英米の音楽が下敷きにあるわけで、というか日本に限らず「ポップミュージック」というのは基本的に戦勝国のカルチャーですよね。だからそこに乗っかっている以上、LA、NY、ロンドンから世界中に同じ音楽を放送するBeats1は、価値判断のひとつの参照点になる共通の軸を世界中に作る可能性がある。それは革命的だと思う。

方便&天野:えー。

照沼:もちろん、それは支配かもしれないけど。

方便&天野:それは良くないでしょう。

天野:うん、それには賛成できない。

方便:そういうガラパゴスの解消の仕方は間違っていると思う。


Green Day – Basket Case selected by 照沼健太



音楽はナウシカやマッドマックスの世界に突入する


天野:でも、何が上で下かどうかはともかく広く「歴史を知ってほしい」というのはありますね。ガラパゴス化してる日本の音楽に一番足りないのは歴史をみつめることなので。どんな音楽にしても、ネットによってその歴史をたどることは簡単になったし。Apple Musicのプレイリストは特に音楽の歴史や旧譜にアクセスすることが重視されていて、例えば「ヒットメーカー:ブライアン・イーノ」っていうブライアン・イーノがプロデュースした曲のプレイリストもある。

方便:たとえば「L’Arc~en~Cielが影響を受けた曲」とかもあるの?

天野:たぶん無いかな。

照沼:あればいいよね。

天野:神聖かまってちゃんのの子はTSUTAYAで音楽の歴史を知り、フリート・フォクシーズは違法ダンロードで音楽の歴史に触れてああいう音楽を作るようになった。だから今後、「Apple Music以降」と呼ばれるべきミュージシャンや音楽が出てくるんじゃないかな。

方便:たしかにそうだろうけど、フリート・フォクシーズでも、もっと前の時代に出て来たら売れてたよね。

天野:それはどうだろう?

方便:なんでこうなっちゃったんだろう。

照沼:でも広い視点で考えれば、ポップミュージックのビジネスなんてせいぜい60年くらいしか歴史がない。クラシック音楽の時代は作曲家に金持ちのパトロンがついていたわけで、今とは違うお金の動きがずっとあった。ファン相手にレコードを売って暮らせてたのはこの数十年だけ、特殊な時代に僕たちがいあわせていただけだと考えてもおかしくないと思う。

方便:でも幸せな時期だったでしょ。

照沼:うん。

天野:今後は戦国時代に戻るかもしれない。

照沼:ナウシカの世界みたいにね。だから化石燃料を貪り食って環境破壊して戦争をした後の時代が、今来ようとしているだけなのかもしれない。

天野:『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の世界。石油燃料が枯渇して、水ももう無いみたいな。



方便:まあ厳しいのは音楽以外のジャンルでもそうだとは思うけど。

天野:でも、厳しいほうが面白いと思うけどね。ハリウッドにしても表現の制限が厳しかった時代のフィルムノワールがおもしろいみたいな感じで。

方便:いや、それとは全然ちがうよ。お金がないってことだから。とにかく僕はアップルが単勝するみたいなことには絶対にアゲインストですよ。

照沼:お金の動きは厳しくなるなか、機材がある程度良くなって音楽自体は低予算で作れるようになってるから、ある程度のものは作れる。ただし食えないっていう。もうカオス。音楽は儲からないけど鳴り止まない、という状況。

天野:で、飛び出た人は先鋭化していく。

方便:だけど、「先鋭」ってほどではない立ち位置で活躍している音楽家もたくさんいるわけで。僕はそういう音楽も好きだし、大半の作家の状況が苦しくなるのは悲しい。

天野:前から言ってるけど、15年前ならメジャーに行けたようなバンドが(良くも悪くも)インディーに甘んじているという状況もあると思う。でも、それは時代がまったく違うからしかたがないという面もある。メジャー自体が明らかに先細りしているわけだし。とはいえ、きちんと儲けて、かつミュージシャンにちゃんとしたお金をペイできている日本のインディー・レーベルはどれくらいあるのかな。もしかしたら片手で数えられるくらいなんじゃないかな?

方便:海外のインディーがあれだけ盛り上がっているのはなぜなんだろう?

照沼:マーケットが日本だけという状況とは違って、各国で少しずつ儲けられるのもあるだろうし、そもそも文化的な成熟度と理解が違うとも思う。イギリスではそれこそMステ的な人気番組をゼイン・ロウがやっていたんだし。

方便:まあ、今に始まったことじゃないですよね。レディオヘッドがチャートで一位になるとか、何故なんだと思う(笑)


David Bowie – China Girl selected by 野地祥平



音楽の未来のためには規制が必要か?


方便:とにかく僕の意見は、「Apple Musicは音楽の単価を確実に下げる。その結果、リスナーである我々が持っていた、音楽への執着心や愛憎の念が目減りするかも」ということ。そして、作り手の立場から見たら、これはバナナのプランテーションみたいなものだと思う。「食べちゃダメ」なんていう筋合いはないけれど、どういったルートを経てそれがやってきて、なぜこんなに安いのかは考えてみたっていい。僕は、牧歌的な時代を残していくことも出来たと思うんですよ。

天野:それは規制をするということ?

方便:僕は規制派ですよ。

照沼:えー。

方便:これまでの「CD 1枚3000円」みたいな価格相場にはそれなりに意味があったんじゃないかな。

天野:消費者も確実に試されてくるよね。Apple Musicで聞くならお金はほとんど減らないけど、一方で「この音楽をレコードやCD、カセットで買うとしたら明日の食費が減る」という岐路に立たされる。

照沼:明日マッドマックス観に行ってみようかな…。

(取材・文:照沼健太)

照沼健太

AMP編集長。好きな音楽は、インディーを中心としたリアルタイムなポップ・ミュージック全般と、50年代のロックンロール。
LINK:Twitter

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